1965年、日本銀行員だった著者が突然アフリカの発展途上国であるルワンダの中央銀行総裁に就任し、破綻寸前のルワンダ経済を立て直すというお話です。これがまた映画のように熱い展開で、語り口は淡々としているにもかかわらず、あまりの面白さに引き込まれてしまいます。まず日本人が、道路も舗装されていないようなアフリカの小国で経済の立て直しをリードするという「設定」からしてノンフィクションとは思えません。銀行員として超優秀で、かつ心からルワンダの発展を願う著者が、いきなり来た日本人に疑いの目を向ける現地の面々を、理路整然としてかつ熱い思いのこもった言葉の数々で説得し、仲間を増やしていきます。そしてデータと人間を徹底的に調査して、ルワンダ経済の構造的な問題を次々と明らかにし、それに対して徹底的に合理的な手段を講じてい来ます。一方で、たいして優秀でもないのに既得権益で儲けて偉そうな顔をする外国人商人たちを、規制強化やルワンダ人の参入奨励でどんどん追い詰めていく展開も爽快です。
基本情報
作者:服部正也(銀行員)
発行日:1972/6/1 (増補版:2009/11/1)
ページ数:339
ジャンル:NDC 338, 社会科学>経済>金融
読みやすさ
難易度:金融の専門的な話は少々難しいですが、それが分からなくても読み物として十分に楽しめます。
事前知識:金融政策の基礎知識がないと、細かい部分は理解できません。
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目次とポイント
1 国際通貨基金からの誘い:冒険への旅立ち。通貨切り下げが主要課題。大統領から信頼を得る。
2 ヨーロッパと隣国と:仲間の強化、家族の合流
3 経済の応急措置:独占的立場を利用して暴利を貪るルワンダ商業銀行との対決と勝利
4 経済再建計画の答申:ルワンダ人の強みである農業を伸ばし、外国人への増税と合わせて財政均衡を目指す
5 通貨改革実施の準備:通貨改革にあたって既得権益の抜け道をなくす工作をを進める。ルワンダ人商人の参入を促す
6 通貨改革の実施とその成果:通貨改革が成功する中で、商才の無さによって自滅する外国人商人たち
7 安定から発展へ:銀行の整備、コーヒー局開設、倉庫の運営とトラック輸入による物流改革、バス網の整備
8 ルワンダを去る:軍事衝突、人材不足、悪天候などの苦境をひとまず乗り越え、経済が安定を見せた後に日本へ帰国
感想
主人公は強くて誠実なヒーロー。そして展開もドラマティックです。もうこれは、映画やアニメのシナリオの世界にしか見えないです。それに加えて、本書は数々の教訓も与えくれます。外国人から見れば一見不合理的だったり不真面目に見えるルワンダ人の行動を見て、外国人技術援助者は偏見を持って傲慢に接するようになります。しかし偏見のフィルターと取り去ってしっかりとルワンダ人を見つめると、彼らには彼らなりの合理的な理由があって行動していることが分かります。そして決して単なる無能なんかではない。それを信じた著者が、ルワンダ人が自らの努力によって発展していく未来像を描き、それを実行に移していく姿が熱いです。こんな日本人がいたことを今まで知らなかったですし、ルワンダにも虐殺と難民というイメージ、というか偏見しか持っていなかった自分が本当に恥ずかしいです。
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