【書評】人類の遺伝子はスマホに適応していない『スマホ脳』

社会

スマホがいかに脳に悪影響を与えるのかを示す最新の研究結果が数多く紹介されています。うつ、集中力の減少、睡眠障害、幸福感の現象、などなど。普段何げなくスマホを長時間眺めている身にとって、かなり衝撃的な内容でした。一方で本書のさらに面白いところは、なぜスマホがそんなに悪影響を持つのかという背景を、進化生物学の観点から説明してくれるところです。人間の遺伝子は1万年以上前の狩猟採集時代の環境に適応してできていて、スマホという新しいデバイスが普及した環境には適応できていないというのです。本来、危険な動物や敵対する人間から身を守るために進化した脳の特徴が、スマホに依存するように機能してしまっているのです。そして、Facebookをはじめとするアプリ開発者はそのことをよく知っていて、人間の報酬系を刺激することでスマホの画面を見る時間を巧みにコントロールしているのです。自分の作ったアプリが人間社会にとんでもない悪影響を与えつつあることに後悔する開発者のコメントが、なかなかショッキングです。

基本情報

作者:アンデシュ・ハンセン(スウェーデンの精神科医)

発行日:2020/11/18

ページ数:256

ジャンル:NDC 491, 自然科学>医学>基礎医学

読みやすさ

難易度:簡単です

事前知識:不要です

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目次とポイント

第1章 人類はスマホなしで歴史を作ってきた:狩猟採集時代に進化した人類の遺伝子は、スマホを含めた現代の生活に適応していないため、数々の不都合が生じる

第2章 ストレス、恐怖、うつには役目がある:外敵が多い狩猟採集時代に最適化されたストレスや恐怖心が、SNSなどのスマホの機能に過剰に反応することで問題を引き起こす

第3章 スマホは私たちの最新のドラッグである:アプリ開発者は巧みに人間の報酬系を刺激するように設計し、なるべくアプリ使用時間を増やすように工夫している

第4章 集中力こそ現代社会の貴重品:スマホを持っているだけで、仕事や学習に対する集中力を大幅に奪っている

第5章 スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響:ドーパミンやブルーライトによって、精神障害や睡眠障害を引き起こす

第6章 SNS―現代最強の「インフルエンサー」:SNSは孤独や嫉妬、不幸感、自己否定、などなど、悪影響の宝庫

第7章 バカになっていく子供たち:身体を使わないこと、目の前の報酬を我慢できなくなること、睡眠不足などが理由で、スマホを使うほど子供の学習効率が落ちる

第8章 運動というスマートな対抗策:運動がスマホの悪影響を減らす。一日5分でも違ってくる

第9章 脳はスマホに適応するのか?:むしろ記憶力などが退化している。適応には膨大な年月が必要で、しかも安全な現代では自然淘汰が働かず、進化のペースは遅い

第10章 おわりに:原始時代に戻れば良いというわけでもない

感想

この本を読み終わったら、なんだかスマホを触るのがちょっと恐ろしくなりました。普段、ちょっとスマホをチェックするか、と思って触り出した後、気づけば小一時間でもいじっていることがあるので、思い出してゾッとしました。紹介されているアプリの開発者のコメントがまた恐ろしい。スマホの報酬系への働きを理解して、ユーザーをコントロールするように工夫して開発している。しかも、それが社会全体に大きな悪影響を与えてることを後悔しているというのです。一方で、iPhoneにはスクリーンタイムの分析や時間制限の機能、それから夜にブルーライトを減らす画面設定だったりと、スマホの悪影響を考慮した機能が徐々に充実してきているので、アプリ開発者にも良心があるなと安心できる部分もあります。とにかく、いかにスマホを忘れて読書や勉強、仕事に没頭できる時間を最大化するか、本書のノウハウも活かして考えていきたいですね。スマホに使われてたまるかと思います。

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