【書評】社会学を学ぶためのガイドブック『社会学大図鑑』

社会

DK社の人文社会系の大図鑑シリーズの社会学編です。構成はシリーズおなじみで、大まかには発展の歴史を時系列に解説していきます。各トピックには本文に添えて、図解、前後の歴史などの背景知識、研究者の紹介、などが散りばめられています。社会学がどういう学問なのか、正直素人にはさっぱり分かりません。そんな素人でもさらっと読める平易な文章と図解をなんとなく眺めてみて、興味あるトピックの本をさらに読んでいくというような、ガイドブック的な使い方に最適な本になっています。

社会学はメインストリームを掴みにくい

本書の定義によれば、社会学は ”集団内部における個々人の行動や、そうした行動が集団によっていかに形成されるかを研究する学問” だそうです。これだけ聞いてもいったい何を研究しているのかとても分かりづらいです。哲学、心理学、経済学、政治学、などの他分野との違いも明確ではありません。研究対象も、近代化、都市論、グローバル化、文化、労働、社会制度、ジェンダー、などなど多岐に渡ります。そのせいか、トピックの並びも完全に時系列構成にするのではなく、いくつかの話題をまとめて章に分けて、その話題の中で歴史順に構成されています。

それだとあまりにもまとまりがなさそうに聞こえるかもしれません。本書はそこに気をつかったのか、最初の章は「社会学の成り立ち」と題して、ある程度メインストリームの研究者をまとめて紹介しています。

社会全体を一つの機能体と捉えて、統計データなどから科学的に社会の仕組みを解き明かそうとするコントやデュルケームの実証主義。しかしあまりに複雑で変化の早い人間社会という対象に対して、実証主義の限界が見えてきます。そこからウェーバーなどの主観的で質的な解釈を重視する立場が主流になってきます。そして20世紀後半には、研究対象を個人レベルまでミクロ化するようになります。

現在も続く近代の問題点

近代化による社会の急激な変化を背景に、19世紀という比較的最近になって生まれたのが社会学です。その近代化による社会の問題点を指摘したのがウェーバーやマルクスですが、その視点は今でも完全に古びたものにはなっていません。

効率重視の官僚制は多くの企業をはじめとする組織で基本的な制度になっています。社長などを頂点とするピラミッド型組織によるトップダウンの指示命令系統は、相変わらず末端で働く個人の疎外を生み出し続けていると言って良いでしょう。賃金や労働条件の面で労働者の待遇が大幅に改善された現在でも、資本家が労働者を搾取するという基本的な構図は変わっていません。さらに現代は経済のグローバル化によって、それが一組織や国を越えて世界規模で起こっています。

一方でITの普及などで社会がどんどん複雑化し変化が早まる中、社会学の扱う話題も細分化しているようです。この社会の仕組みとは?というマクロな視点よりも、文化、アイデンティティ、ジェンダーなどの個々の問題へ視点が移ってきている印象を持ちました。

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