児童精神科医である著者が非行少年たちの支援を経験してきた中で発見したこと。それは問題を抱えた少年たちが脳の認知機能に問題があり、それによる抑制のきかなさや社会生活への不適応が原因で犯罪や非行に走っているということです。従来の非行少年への支援は、対話によって誤った認知を修正していく認知行動療法が一般的だそうですが、そもそも認知障害を持った人には効果がないそうです。本当に必要なのは、トレーニングによって彼らの認知能力を改善して、まずは社会生活を問題なく送れるようになることです。本書は、そういった非行の原因に対する啓蒙から始まり、具体的な認知機能のトレーニング方法まで紹介してくれます。ふだん犯罪者に対しては倫理面での悪いイメージだけを持ちがちですが、その原因をその人格から切り離して「認知障害」という脳の機能の問題として理解することは、色々な示唆を与えてくれます。
基本情報
作者:宮口幸治(児童精神科医)
発行日:2019/7/12
ページ数:192
ジャンル:NDC 368, 社会科学>社会>社会病理
読みやすさ
難易度:さらっと読めます
事前知識:不要です
おすすめ予習本:なし
目次とポイント
第1章 「反省以前」の子どもたち:認知機能に問題のある場合には認知行動療法は効果がない
第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年:他人からのフィードバックを受け取れないために自己に対する正しいイメージを持てない
第3章 非行少年に共通する特徴:認知機能の弱さ、感情統制の弱さ、融通の効かなさ、不適切な自己評価、対人スキルの低さ、身体的に不器用
第4章 気づかれない子どもたち:明確に病気と認識されないので、ちょっと困った子供という印象のを持たれたまま事態が悪化する
第5章 忘れられた人々:軽度の知的障害者は14%程度いる
第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない:何かができなくても無理に褒めるよりも、できる位にトレーニングの難易度を下げて自信を持たせるべき
第7章 ではどうすれば?1日5分で日本を変える:コグトレ(人気機能強化トレーニング)で記憶、言語、注意、知覚、推論を鍛える
感想
こういう話を聞くと、極悪人に見える犯罪者にもやむを得ずそうなってしまう先天的な特徴や周囲の環境といった「理由」が存在する、という合理的な考え方を少しは持てるようになります。犯罪に感情的に反応するよりも、そんな風に合理的に捉えることが正しいのでしょうし、そうありたいと思います。でも、それは自分がいまだ犯罪行為によって大きな被害を受けた経験がないからかもしれません。もし自分がそうなった時、果たして加害者をそレまでの冷静な視点で見ていられるかというと、きっと無理でしょう。非行少年が認知機能を改善して社会に適応すれば、それは本人にとっても社会にとっても幸福なことに違いありません。その合理的で正しそうな結論が、自分が被害者になった瞬間に無意味なものになってしまわないか、と考えると不安になります。
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