【書評】『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』

社会

気候危機は解決できる。世界で最も引用されている存命中の知識人ノーム・チョムスキーと、世界最大の再エネ投資計画をオバマ政権下で監督したロバート・ポーリンが、気候危機を公正に解決するための「グローバル・グリーンニューディール」構想を語り尽くす。

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感想

最近は気候変動についての話題をなにかと耳にする機会が多いです。このままでは海水位が上がって都市が水没するとか、異常気象で災害や飢饉が頻発するとか、悲観的になるニュースに事欠きません。でも、それでは具体的に何度上昇したらまずいのか、それを防ぐためには世界全体でどの程度CO2排出量を減らせばよいのか。そこまでは、ちょっと調べればIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が報告している削減目標を見つけることができます。2100年までに気温上昇を摂氏1.5以内に抑えるためには、2050年までに実質排出量をゼロにする、というものです。ではその先の話の、世界各国がどのような政策を実行すればそれを達成できるのか、についてはどうでしょうか。それに対する一つの提案が「グリーンニューディール」と呼ばれていますが、そういった具体的な解決策をニュースなどで耳にする機会は極端に少ないです。危機感と倫理観をあおるばかりで、そういった話題から逃げているようにすら感じます。

本書は、その解決策の部分を具体的なデータをもとに明快に語ってくれます。感情論ではなく、実際に各国政府が実行すべき政策は何か、そのためにはどの程度の予算が必要なのか、実行の障害となるものは何か、などの戦略論を学ぶことができます。

なかなか世界でCO2削減が進まない現状を見ると、それを実行するのにはどんなに莫大な予算が必要で、経済のダメージも相当なものになるのではないかと想像してしまします。ところが、本書で試算されているグリーンニューディールのための予算はGDPの2%です。決してすぐに経済が破綻するような規模ではないのです。ではなぜその実行がそれほど難しいのでしょうか?。

まず、その予算の負担は世界で一律ではなく、欧米や日本などの先進諸国で多くを支出する必要があるというのです。貧困国や途上国にさらに負担を強いるような政策は上手くいかないのです。しかし、自国の利益を追求するのが各国の政治家の仕事ですから、その方向で強調していく難しさは想像に難くありません。

さらに、石油業界などの、脱炭素によって損害を被る既得権益の存在です。彼らは未来の世界を救う以前に自分たちの利益が大事ですから、当然のように全力でロビー活動などで邪魔をします。経営者もそうですが、職を失う労働者たちも同様です。本書では、石油生産量の上限を規制するなどの提案がなされていますが、実行するためのハードルは高そうです。

世界中が協力して一つの方向に舵を切れば、経済に大きなダメージを与えずにCO2削減は達成できるというのが本書が示してくれる希望です。一方で、個々の組織や人間のエゴによってそれが達成できず、人類全員が破滅の道を歩む可能性も決して低くないのです。私たちは、人類全体の知性や利他生が試される、歴史の転換点にいるのかもしれませんね。

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