【書評】『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』ガイ・ドイッチャー

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ホメロスの叙事詩『イリアス』や『オデュッセイア』では、海と牛がともに「葡萄酒色」と表現され、「青」は一切出てこない――古代ギリシャ人は世界がモノクロに見えていた? 前後左右にあたる語を持たず東西南北で位置を伝えるグーグ・イミディル語話者の「絶対方位感覚」とは? ドイツ人にとって、男性名詞「リンゴ」は男らしい? 言語が認知に与える驚くべき影響を解き明かすポピュラーサイエンス。

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感想

前半は、言語によって人間の認識する世界が大きく変わる、という過去の言語学者たちのある種魅力的でもある主張の多くが否定されてきた歴史が描かれています。一方で、厳密さを求める最新の研究の中で少しずつ分かってきた、言語の違いが認識能力に影響する確かな例がいくつか紹介されます。

本書を読んで分かったのは、言語は人間にある認識能力を追加したり無くしたりするようなドラスティックな影響を与えることはないという、なんだか地味だと感じてしまう事実です。色について名前が少ない言語を使う人は細かい色の違いを認識できないかというとそうではなく、ちゃんと違いは認識できます。時制のバリエーションの少ない言語を使う人が時間を認識していないかというとそんなこともありません。

では言語がどんな影響を持つかと言うと、認識のスピードや正確さなどの「程度」の問題だというのです。色の違いを認識するスピードや、東西南北の絶対方位感覚の正確さなどです。それは言語が思考を制限するからではなく、各言語によって何かを表現する際に、色の違い、人称や性別、東西南北などで表現することを話し手に「強制」することで、ある特定の認識能力を高める訓練を強制的に受けることになるからです。

本書はそういった結論を初めからダイレクトに解説する読み物ではなく、あえて言語学の1テーマについての歴史を時系列で語る形式を取っています。それによって、言語学についてのうんちくを知るだけではない、言語学者たちが織りなすひとつの物語を楽しむこともできる本になっています。

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