弟の姦計により、地位を奪われ、娘ミランダとともに孤島に流されたミラノ大公プロスペロー。歳月を経て秘術を身に付けた彼は、ある日魔法の力で嵐を起こす。彼を陥れた弟とナポリ王、王子を乗せた船は難破し、孤島へ。そこでミランダとナポリ王子は恋に落ち、プロスペローは妖精を操って公国を取り戻す。詩的音楽性と想象力に満ちた作品を、評価高まる新訳で。
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感想
親族の裏切りあった主人公という点は『ハムレット』に共通していますが、その裏切りに対する行動はまるで正反対の内容です。ハムレットは復讐を誓った結果破滅へと向かう、復讐ものの普遍的な展開です。一方で『テンペスト』は真逆で、「許し」と「寛容」の物語です。これは現代の空気感にすごく合った作品ではないでしょうか。
プロスペローは何でもできる魔法の力を持ちながら、それを復讐の道具にしません。その力を世界を幸福なものにするために使います。そして魔法の力を失い、自分の身の上は流れに任せるのみです。平和で幸福なラストを迎える本作で読後感も良いですが、一方で人間なかなかこうはなれないだろうな、という印象もあります。ハムレットが人間の性質のリアルを描いているとすると、本作はこうありたいという理想像を描いているように見えます。
本編後に解説を読んで、この作品の見方が大きく変わりました。テンペストはシェイクスピアの最後の単独作です。長年にわたり観衆を楽しませた後、引退して以後は共作のみになるシェイクスピア自身と、周囲に幸せをもたらした後に魔法の力を捨てるテンペストが重なります。そう思ったとたんに胸にぐっとくるものがありました。作品に作者自身を投影するというクリエーターの普遍的な姿、その源流を見るような気がしました。
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