【書評】『ロミオとジュリエット(ちくま文庫)』シェイクスピア

文学

モンタギュー家の一人息子ロミオは、キャピュレット家の舞踏会に忍びこみ、その仇の家の一人娘ジュリエットと一目で激しい恋に落ちてしまった…。宿命的な出会いと、短かく悲しい破局をむかえる話はあまりにも有名であり、様々な悲恋物語のモチーフとなっている。その代表的傑作をさわやかな新訳で。

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感想

ロミオとジュリエットの恋愛の盛り上がりが詩的な表現でこれでもかと表現されます。一方でこの作品で面白かったのは、その恋愛模様を2人の主観から描くだけではなく、周囲の冷静な視点も交えて客観的にも描いているように見えるところです。少なくとも個人的にはそう思いました。

まずロミオがジュリエットに一目惚れするその瞬間まで、他の女性に振られても未練たらたらの状態です。それを一瞬で忘れるくらいジュリエットが魅力的だったということを言いたいのかもしれませんが、それと同時に恋の炎の一過性を表しているようにも思えます。そのような置き換え可能なものに、ロミオもジュリエットも命をかけていくのです。

ロミオの恋を茶化す友人のベンヴォーリオとマキューシオ、2人に協力するが基本的にはほどほどにしておけという態度のロレンス神父。読者はいったんロミオとジュリエットの主観から逃れて、周囲からの客観的な立場から2人を眺められる構成になっています。

その両視点から2人の恋愛の行き着く悲劇を見ていると、その熱い恋心を応援したい気持ちと、もっと器用に世渡りしたら良いのに、という気持ちが同時に生まれてきました。案の定、情動に従って行動した結果、2人は破滅に向かいます。しかし、ラストにその2人の軽率に見える行動の結果、長年の両家の対立が愛の力で解消していくという逆説的な展開が待っています。作中に、矛盾した形容詞を並べる撞着語法という表現でロミオが語るシーンがありますが、まさにこの話自体を象徴しているようです。

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